いぼとり地蔵
方言解説
のお
語尾・ねぇー
こまい
小さい
おんなじ
同じ
ちゅうて
いうて
こっちゃあ
ことでは(ことだ)
のおなって
なくなって
どがい
どのように
ちゅうもんは
いうものは
しとった
していた
こっちゃた
ことであった
なりんさって
なられて
おいでんさい
おいでなさい
こっちゃ
ことだ
ちゅうて
いうて
かかりよった
かかりました
こもうなって
小さくなってきた
きよって
きまして
のうなって
なくなって
ようけ
多山(多く)


いぼとり地蔵
今より百五十年程むかしの話じゃ。
原田のあるところの若い夫婦に、可愛らしい一人っ子の女の子供がおったんじゃ。
 ところが、この女の子の可愛い手にのおこまい「いぼ」ができたんじゃ。初めのうちは、なんの気にもしておらんじゃった。 
 ところが女の子が大きゅうなって娘らしくなってくると、おんなじように手の「いぼ」も段々大きゅうなって広がってくるんでのう、女の子は、はずかしいちゅうて家の中に引きこもって、外に出んようになったんじゃ。
 夫婦の心配は、一通りのこっちゃあのおなってきてのおどがいにしたら良いもんじゃろうかと頭をいためとった。
 それからちゅうもんは、朝な夕な、神様や、仏様に娘の「いぼ」が一日も早よう落ちます様にと、一生懸命お祈りしておった。
 また、近くの大地原のお地蔵さんにも、毎日お参りして、お願いしとったんじゃが、娘っ子の「いぼ」は一向になおらんじゃった。
 ところがある晩のこっちゃた。寝ていたお母さんの夢枕に大地原のお地蔵さんが、お立ちになりんさって のお、「明日の朝、娘っ子を連れて地蔵までおいでんさい」とお告げになされたんじゃそうな。
 母さんは早速 父さんに、夢のお地蔵さんのお告げを話したんじゃ。
父さんは「そりゃ有り難いこっちゃ、すぐに娘を連れてお参りしよう」ちゅうてのお、夜の明けるのを待って、庭に咲いとったお花をもたせて、三人連れだってお参りしたんじゃ。 娘っこがお地蔵さんの花たてに、家から持ってきたお花を差した時、花立ての水があふれて手にかかりよった
 それからちゅうもんは、手の「いぼ」が日増しにこもうなってきよって、しまいには、のおなってしもうてのう、もとのきれいな手にもどったんじゃ。
 親子三人は、大そう喜んで 大地原のお地蔵さんのお陰じゃちゅうて娘むすめっ子は母さんと一緒に、おそなえとお花を持って、お礼参りに行ったんじゃそうな。 その後、このことが村中に伝わってのお、誰が言うともなく「いぼとり地蔵」と呼ぶようになり、霊験あらたかなお地蔵さんじゃと言うてのうよおけの人がお参りするようになったんじゃ。

あとがき
 この民話に出てくる「いぼとり地蔵」当初、清光寺西側大地原の川を渡る橋のたもとの道路脇に安置されてましたが、大正十年(一九二一)一月に現在地に移されました。
 昭和の初期頃まで「いぼ」ができたときは、夜明けに人に合わないようにお参りして花たての水を頂いて「いぼ」につけると、どんな「いぼ」でも落ちると信じられ、いぼとり地蔵と呼ばれて信仰されていました。


三界萬霊地蔵(通称・いぼとり地蔵)
健立 文政三年辰(一八二〇)
願主 天信
お話 土本多助氏

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